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虫垂炎

【急性虫垂炎の病態】

虫垂は大腸の始まりの部分から突出し盲端となる腸管の一部で、通常右下腹部に存在します。急性虫垂炎(盲腸とよばれることが多い)は、虫垂の内部で細菌が増殖し、炎症が生じた病態をさします。炎症の原因は様々です。

虫垂炎は年長児ほど発生しやすく、5歳以下は少ないとされています。とくに2歳以下のお子さんに発症することは極めて稀です。

【小児虫垂炎の特徴】

小児の虫垂炎は大人と比べて訴えが不確実で診断が遅れがちです。また、虫垂の壁が薄く内腔が狭いため穿孔(破裂)しやすく、容易に腹膜炎を併発します。

【急性虫垂炎の症状】

腹痛、発熱、食欲低下、嘔吐、下痢などがみられます。

【診断法】

1)病歴・触診
2)血液検査・腹部X線検査・超音波検査。必要に応じてCT検査も行います。

【治療法について】

きわめて早期の虫垂炎は抗菌薬を使用することにより治すことが可能です。しかし、明瞭な腫れを伴う虫垂炎や穿孔(破裂)をきたした虫垂炎には手術治療が必要です。手術はお子さんの身体的・精神的負担を軽減するため、原則として全身麻酔下におこなっています。手術方法は従来の開腹手術と、傷の小さい腹腔鏡下手術の二通りの方法で行っています。腹膜炎を伴わないケースには、体のダメージがより少ない腹腔鏡下手術をおすすめしています(ただし、診療体制や時間帯によっては腹腔鏡下手術が不可能な場合があります)。

【開腹手術】

歴史が古く安定した実績のある手術方法です。
1)右下腹部の切開(約3-5cm)により開腹します。
2)虫垂を確認して、その栄養血管をしばります。
3)虫垂をねもとでしばり、虫垂を切除します。
4)創部を縫合し、閉腹します。

【腹腔鏡手術】

比較的新しい手術方法です。カメラと専用の道具を用い、臍(おへそ)に開けた「穴」を通して手術を行う方法です。
1)臍窩に約25mmの小さな縦切開をおき傷にシリコンゴム製のリングをはめ込みこれにシートを装着してここから腹腔内にスペースを作るために二酸化炭素ガスを腹腔内に送り込みます(これを気腹とよびます)。これにより視野が確保され、手術が可能となります。続いてカメラや鉗子(組織をつかんだりはがしたりする器械)を挿入します。
2)虫垂を確認して周囲をはがして臍から虫垂を引き出し、虫垂を養う血管を糸で縛って切ります。
3)虫垂の根元を糸でしばって切除します。
4)臍の下の筋肉を閉じて臍の皮膚を縫合します。皮膚の傷は抜糸の必要のない方法で縫います。

*炎症・癒着が予想を超えて強い場合や、出血・臓器損傷等により、腹腔鏡下手術の続行が困難な場合、開腹手術へ移行する可能性があります。

**開腹法・腹腔鏡下法のいずれの場合でも、腹膜炎が合併していた場合には大量(5L以上)の生理的食塩水で洗浄して排膿管(ドレーン)を留置することがあります。

【手術にともなう合併症】

虫垂炎の手術は簡単な手術と考えられがちですが、本当に手術が必要な虫垂炎の手術では、一般的に手術後10%前後の頻度で合併症がみられます。

1)術中合併症

(ア)出血(輸血を必要とするような出血はほとんどありません)
(イ)他臓器の損傷(腸管・膀胱・子宮・卵巣・卵管・尿管など)きわめて稀な合併症です。損傷が起きた場合には可及的に修復します。

2)術後合併症  

(ア)皮下膿瘍(傷が化膿する)
(イ)遺残膿瘍(おなかの中に膿がたまる) あらゆる手術が理想的には無菌下で行われるべきですが、急性虫垂炎はもとより細菌の増殖が原因となっているため、上記2つの合併症は他の手術にくらべ高頻度に起こります。とくに穿孔を伴う虫垂炎の術後には起こりやすい合併症です。皮下膿瘍があると創部の治癒が遅れます。遺残膿瘍は通常抗菌薬の使用により治すことができますが、治療が難渋する場合には再手術が必要となります。
(ウ)糞瘻形成 虫垂断端から便が漏出し、創部との間に交通ができる状態をいいます。非常にまれな合併症です。長期絶食が必要となります。
(エ)腸閉塞 開腹手術の後に腸同士あるは腸と創部が癒着することにより起こる合併症です。腸閉塞は術後3-4日から起こり得ます。術後数年経て発症することもあります。絶食と消化管の減圧が必要となり、重症例では手術が必要となります。

3)その他の予期せぬ合併症

手術に際し、予期せぬ稀な偶発症が起こる可能性は皆無ではありません。稀に別な病気が見つかる場合があります。また腹腔鏡下手術では、立体的に見ることが難しいこと、鉗子を用いた間接的な操作(手の触覚が鈍くなる)が主であることから、予期せぬ偶発症が起こりえます。これらの偶発症が発症した際は、迅速に最善の治療を行うとともに、病状についてご本人・ご家族に十分な説明を行います。

【腹腔鏡下手術と開腹手術のメリット・デメリット】

  腹腔鏡下手術 開腹手術
傷の大きさ 小さく目立ちにくい 比較的目立ちやすい
手術時間 あまり変わらない  
回復に要する時間 短い やや長い
術後在院日数 非穿孔 2-3日 3-4日
(目安) 穿孔 5日 7日
手術点数(費用) やや高くなる(約2倍)  

【手術を受けない場合の経過について】

明らかな腫れを伴う急性虫垂炎や穿孔を伴う急性虫垂炎に対し、手術を行わず抗生剤投与を行わなかった場合、重症の腹膜炎へと病状が進行します。抗菌薬を使用した場合は治癒を期待することもできますが、まったく無効なケースや再発・再燃をきたすケースが少なくなく(虫垂炎の程度によりますが、30-70%と報告されています)、また治療にかかる時間も短くありません(通常10-14日)。近年は強力な抗菌薬を用いて保存的に治療し、一度退院してから2-3か月後に再入院し手術をする方法も行われてきています(待期的間歇期虫垂切除)。遺残膿瘍などの術後合併症を減らせることがこの方法のメリットですが、不成功例も少なくありません。詳しくは担当医にお尋ねください。

虫垂の位置

虫垂切除術

 

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