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鼠径ヘルニア

鼠径( そけい)ヘルニアとは

 私たちのおなかの中には腹膜と呼ばれるふくろがあり、その中には腸が入っています。胎児期の3ヶ月~7ヶ月頃に腹膜の一部が腹膜鞘状突起と呼ばれる袋状のものとして、そけい管と呼ばれる空間に飛び出し出生後~生後6ヶ月には自然消失します。しかし、1~4%のお子さんでこの袋が消失せずに脱出した袋がヘルニア囊として残ることがあり、これがそけいヘルニアといわれる状態です。穴が小さく腹水が通る程度の物ですと男児では交通性陰嚢(精索)水腫、女児ではNuck(ヌック)水腫といわれます。

なぜ手術が必要なの?

 そけいヘルニアは自然に治ることが期待できないこと、嵌頓(かんとん)といってそけい部の膨隆が戻らず、痛みが増強したり、嘔吐が出現することがあり、戻らなかった場合は緊急手術が必要となることがあります。嵌頓は1才以下の乳児に多く見られ、突然不機嫌になったり、鼠径部に痛みが生じたり、膨隆部がいつもより硬く赤くなったりします。嵌頓時には少し(数時間)リラックスさせて待つか、徒手整復(押し込む)でほとんどの例では戻すことが可能です。まれですが嵌頓の際に腸管、卵巣・卵管[女児]等がヘルニア囊に脱出して、虚血(血が流れなくなる)になっている場合もあり、虚血臓器の合併切除となることがありえます。精巣動静脈〔男児〕が脱出した腸で圧迫されて虚血になることもあります。穴が大きい場合には常時脱出しているものもあります(非還納性ヘルニア)、交通して穴が小さい場合には水だけがたまり腫れが続きます。この場合は嵌頓ではないので急ぎません。鼡径ヘルニアと診断が付いた場合にはその他の根治治療はなく、手術が必要となります。当院では原則として1才過ぎに手術を行うことにしております。

手術は2通りの方法があります

1)鼡径法  40-50年の歴史があります。

 お子さんのおなかの一番下にある皺に沿って2-3cmの傷がつきます。傷の下はヘルニア囊の根本の部分に相当します。男の子の場合は精巣動脈、精管をヘルニア囊から分けて残した後脱出したヘルニア囊の根元でしばります。この際、ヘルニア囊の中に腹腔内から脱出してきたもの(腸管、卵巣・卵管[女児]、脂肪など)があった時は腹腔内に戻してからヘルニア囊を縛って切り取りますが、癒着(くっついてはがれにくい)していたときは、やむ終えず切除する場合もあります。止血を確認して傷を閉じて終了です。皮膚を縫うときには溶ける糸を使い、皮膚の表面に糸目が出ない様に傷が一本の線になる様に縫います(図のA) 。最後に傷を保護するテープを貼ります。

2)腹腔鏡下鼡径ヘルニア根治術 17-8年の歴史があります。

 臍を縦切開して腹腔内にポートといわれる管をその穴から入れてそこからカメラで観察します。続けて臍の傷の下よりの所から径3mmの細い鉗子(組織や糸をつまむ器械)を入れて左右のヘルニアの穴をおなかの中から確認します。ヘルニアの穴のまわりに針を通してその中に糸を通すことによりヘルニア囊の根本でしばります。また反対側にヘルニアの穴を認めた場合には予防的に穴をふさぐことができます(図のB)。この手術法は技術的にやや難しく、まだ十分に普及している方法ではありません。技術的にどうしても難しい場合には、一般的に行われているように下腹部に鉗子を入れる切開(直径約3mm)を追加する場合があります。また腹腔内の癒着などがあり腹腔鏡手術を続けることが困難で危険な場合には鼡径法に変更する場合もあります。最後に傷を保護するテープを貼ります。

腹腔鏡手術の場合に必要な術前処置

創が感染しないように術前日に臍の汚れをオリーブ油でとっていただきます。また便がたまっていると腸がじゃまして腹腔鏡で穴が見にくくなってしまうため、術前夜か当日朝に浣腸をしていただきます。

3)麻酔

 どちらの方法の場合にも、こどもの場合には全身麻酔で手術を行います。麻酔の詳細については術前に外来で麻酔医から説明があります。風邪を引いた場合には手術は延期になります。

4)その他

 非常にまれではありますが鼡径ヘルニア手術の際に別の疾患が見つかる場合があります。その場合にはその都度ご説明して対処いたします。

術後合併症

 発熱、痛み、嘔気・嘔吐、傷の腫れ、出血、血腫、創感染、精巣萎縮・精管狭窄や損傷・精巣挙上(停留精巣)[男児]、膀胱障害、再発(0.2-0.5%で術式に差はないとされています)、ケロイド(体質によっては傷の瘢痕が目立つ)などがあります。 創部である臍(腹腔鏡の場合)、鼠径部(鼡径法)、陰嚢の腫張は術後しばしば見られますが数ヶ月から半年で自然に軽快します。鼡径法の場合には出た側のみ手術するため、後に5-10%の患者さんで反対側にヘルニアが出る事があり手術を必要とする場合があります。

術後外来

術後は1週間後に外来で傷をチェックします。傷の具合によっては腫れや硬結(創の硬い部分)が軽快するまで、状況によって1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月、1年後の外来にいらしていただく場合もあります。

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